登場人物
サニ・アレストラ
スノア・フィリス
レイル・アルヴァン
クラウド・ナレフ
フィア・アレストラ
ミラ・アレストラ
緑眼の男
黒魂
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サニ・アレストラ
「無理なら無理って言えって。俺が勝手に何とかするからさ」
WIROが管轄する探求士候補生学校に在籍する少年。オルヴェナ共和国北西部の街エズミア出身。
エズミアでは中学に通いながら、三本の縄を使うクライミング競技「トライロープ」の選手としても知られていた。オルヴェナ国内大会で優勝した実績を持ち、街では将来を期待される若手選手の一人だった。
幼い頃からよく笑い、友人たちの輪の中でも場を明るくする存在だった。一方で、幼くして母を亡くしており、街で手をつないで歩く母子を見かけると、ふと黙って目で追ってしまうことがあった。本人は誰にも悟られないように振る舞っていたが、親友のスノアだけは、その沈黙を見逃していなかった。
サニの記憶には、巨大な遺物「黒紫柱」を調べていた母の姿が、今も鮮明に残っている。モノリスが何なのか、サニにはわからない。だが、それは母が最後まで向き合っていたものとして、彼の中に残り続けている。
十五歳を迎えたサニは、昏渡りに参加することになる。だがその時もまだ、自分が何に向き合い、どこへ進むべきなのかを決められずにいた。
そんな昏渡りの最中に発生した異常事態をきっかけに、サニは自分の現実と向き合う覚悟を決める。まだ何者でもなく、漠然とした未来の前に立つ少年は、シーカーとなるため、翳りの世界へと渡ることとなる。
「俺はまだ何もわかってない。だったら、自分で確かめるしかないよな」
スノア・フィリス
「祖父さまは、知らないものを笑わなかった。俺も、そういう人でいたい」
オルヴェナ共和国北西部の街エズミアに暮らす少年。サニと同じ中学に通う、幼なじみであり親友。
真面目で落ち着いた性格から、教師たちからの信頼も厚い。友人たちといても勢いだけで動くことは少なく、まず周囲を見てから判断する生徒だった。サニに小言が多いのも、彼の危うさを誰より近くで見てきたからである。
北のノーサルヴィア大陸に住む祖父は、国際遺構調査員として各地の遺構を調べる考古学者だった。厳格で物知りな祖父を、スノアは幼い頃から尊敬していた。かつて祖父が黒紫柱の調査でエズミアを訪れた際、一度だけその仕事に同行している。そこで、考古学者である母について来ていたサニと出会い、二人は次第に親しくなっていった。
サニが母を亡くしてしばらく後、二人で黒紫柱を見に行ったことがある。そこでかつて黒紫柱を調べ、メディアにも出ていたサニの母を、変わり者のように笑う地元民たちがいた。サニが思わず食って掛かり、スノアはそれを止めようと前に出る。振り上げられた拳は、サニを庇ったスノアに当たってしまった。
その出来事以来、スノアはサニの笑顔の奥にあるものを見過ごせなくなった。考えなしに進もうとするサニを止めるのは、正しさを押しつけるためではない。放っておけば一人で傷つきに行くと知っているからだった。必要以上に踏み込むことはしない。それでも、サニが一人で行こうとする時は、必ず隣に立とうとする。
十五歳を迎えたスノアは、昏渡りの日を迎える。知らないものを軽んじず、自分の判断で立てる人間になりたい。尊敬する祖父のような人間となるために、彼もまた、自分の進む道を選ぼうとしていた。
「黙って見ているだけなら、隣にいる意味なんてないだろ」
レイル・アルヴァン
「言っとくけど、俺は悪くないぞ?……たぶん」
オルヴェナ共和国北西部の街エズミアに暮らす少年。サニ、スノア、クラウドと同じ中学に通う友人の一人。
朝市や商店街では顔が広く、店主たちによく声を掛けられたり、手伝いを頼まれたいるすることも多い。余計な一言で叱られることはあっても、翌日にはまた同じ場所に顔を出している。人との距離を詰めるのがうまく、街で流れる小さな噂や変化を聞きつけるのも早い。
思ったことをすぐ口にするため、サニとは言い合いになることも多い。スノアやクラウドが間に入ることもあるが、翌日には何事もなかったようにまた一緒にいる。遠慮のないやり取りも、レイルたちにとってはいつものことだった。
十五歳を迎えたレイルもまた、昏渡りの日を迎える。街の人々に祝福され、友人たちとこれからも変わらぬ日々を歩んでいこうと心に決めていた。
「変わらないって、案外すごいことだと思うんだよね」
クラウド・ナレフ
「小さなことでも、なくしたくないものは僕にだってあるよ」
オルヴェナ共和国北西部の街エズミアに暮らす少年。サニ、スノア、レイルと同じ中学に通う友人の一人。
口数は少なく、柔らかな口調で話す。自分から目立つことはほとんどないが、誰かが困っている時には、そっとそばにいることが多かった。不安や寂しさをうまく言葉にできない相手を、急かすこともしない。
ある雨の日、首輪をつけた迷い犬を見つけ、家まで送ろうとしたことがある。だが、犬に引かれるまま知らない路地まで連れて行かれ、気づけばクラウドも道に迷ってしまった。結局、近所の大人に見つけられるまで濡れたまま歩き回ることになったが、本人はその犬が無事に帰れたことにほっとしていた。
十五歳を迎えたクラウドもまた、昏渡りの日を迎える。自分にとって大切なものをそばで守れるように、彼は静かに小さな誓いを胸に抱いていた。
「そばにいるだけでも、きっと意味はあると思うから」
フィア・アレストラ
「そうやって笑ってれば済むと思ってるでしょ?甘い甘い」
サニより四つ年上の姉。大学に通いながら、父と弟サニと暮らしている。
しっかり者で、家族の前では弱音を見せることが少ない。サニには普段の行いについて口うるさくなることも多い。特に帰りが遅くなった時や、父を心配させるようなことをした時には、黙っていられない。
母が病に倒れてから、フィアは退院できる日を数え、帰ってくることを信じていた。けれど、母は家に戻ることはなかった。仕事と慣れない家事で手いっぱいになっていく父を見て、フィアは少しずつ家のことを引き受けるようになる。失敗する日もあったが、少しでも母の代わりになろうと必死だった。
フィアは今も、待つことが得意ではない。誰かが帰ってくるのをただ待つ時間は、母を待ち続けた日々を思い出させる。それでも、家族のために、自分にできることを続けている。
「ちゃんと帰ってこなかったら許さないからね」
ミラ・アレストラ
「今のあなたたちをちゃんと見ているから」
サニとフィアの母であり、エズミアで活動していた考古学者。
朗らかでよく笑い、家では厳しくも温かい母だった。決めたことは簡単に曲げない芯の強さも持っていた。考古学者としては、エズミアに残された巨大な遺物「黒紫柱」の調査に携わっていた。
地元では、黒紫柱を調べ続けるミラを変わり者のように見る者も少なくなかった。それでも彼女は、周囲の目を気にして立ち止まることはなかった。周りに理解されなくとも、確かめる価値がある。そう考える人だった。
病に倒れてからも、ミラは家族の前で弱さを見せようとはしなかった。死を恐れるより、幼い子どもたちと夫のアルダを残していくことを案じていた。残された時間の中でも、彼女はできる限り普段通りの母でいようとした。
ミラが家へ戻ることはなかった。けれど、彼女の笑顔も、目標に向かっていた姿も、今も家族の中に残っている。
「誰にもわからないなら、誰かが最初に確かめないとね」
緑眼の男
「縋る相手を間違えたな」
サニの夢の中に現れた、正体不明の男。
暗い装束をまとい、深い緑の眼と、感情を読ませない静かな表情が印象的な人物。夢の中なのに、その視線には奇妙な現実感があり、サニは目を逸らすことができなかった。
彼が何者なのか、何を目的としていたのかはわからない。だが、サニがその眼を見た瞬間から、彼の運命は大きく動き始める。
黒魂
黒い体毛に覆われた霊的存在。普段は白い眼をしているが、時折その眼は赤く揺らめく。音も気配もほとんど出さずにどこからともなく現れ、幽霊の類とは異なる存在。
古くから、黒魂は悪霊の類、あるいは死神や導き手として語られてきた。その存在が確認された地域では、心身に異常を起こす者が現れることもある。そのため、WIROではフォボスを危険性の高いものとして扱い、継続的な追跡と対処を行っている。
フォボスが何を見て、なぜ特定の者の前に現れるのかは、公には明かされていない。ただ一つ確かなのは、孤独の中でこの赤い眼を見た者にとって、それはただの幻では済まされないということだ。